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Brighture English Academy 代表。趣味はウクレレとかハイキングとかDIYとか旅行などなど。在米20年。シリコンバレーに住みつつ、日本とアメリカとフィリピンで会社経営しています。最近は英語教育がライフワークになりつつある。

2011年11月21日月曜日

バス停のある認知症の介護施設

 私がまだ高校生だった頃に非常にお世話になった方が、先日アルツハイマーの介護施設に収容されてしまいました。ご家族の方にとっても苦渋の選択だったようです。かける言葉もありません。

 私の妻はアメリカに移住してから、ある時期アルツハイマーの介護施設でボランティアをしていたことがあります。ボランティアの人にもキチンとした研修があり、非常に整った施設だったようです。そこでの注意点とは、「最近の出来事を患者さんに訊いてはいけない」ということだったそうです。最近の出来事の話をしていると、ふとした拍子に自分が認知症であることに気付いて愕然としたり、鬱々としてしまったりしまうそうなのです。ですのでなるべく安定した感情でいられるように、大昔の話は訊いても良いが最近の話は絶対に訊かないこと、となっているようです。

 さてドイツのデュッセルドルフにある Benrath Senior Centreという認知症の介護施設では、他の世界中の介護施設と同様に徘徊老人の対策で頭を痛めていました。「仕事に行かなくちゃ」とか「両親に会いにいかないと」などと行って脱走してしまうわけです。職員が手分けして探したり、警察のお世話になったりと大変なわけです。また本人はいたって大真面目に「仕事に遅れてしまう」などと思っているわけで、連れ戻そうとすれば当然一悶着起きますし、場合によっては強制的に取り押さえ、引きずり戻さざるを得ません。

 ところがその施設に勤務する職員の発案で、介護施設の目の前にバス停を作ることにしたそうです。バス停とはいっても偽物のバス停で、バスは来ないのです。ベンチがおかれ、標識がおかれ本物ソックリに出来上がったそうです。



 最初は近所の人まで本物のバス停が出来たと思って座ってバスを待っていたりしたそうですが、その都度説明して理解を得たそうです。

 やがてある日、少女になり切った老女が「両親が待っているから!」と施設を抜け出し、そのバス停でバスを待ち始めたそうです。しばらくしてからそのバス停に職員が行って、「バスはまだ来ないみたいですからそこでお茶でも飲みませんか?」と声をかけると、すんなり施設に連れ戻せたそうです。

 その後もそのバス停は大活躍。おおよそ3日に1回程度の頻度で利用されているそうです。バス停で留まってくれることもさることながら、逃げ出した患者のほうもバス停がすぐに目に入るため、パニックを起こしたりせずに大人しく座っているため、以前のように見知らぬ街を徘徊して混乱をきたした患者を職員が懸命になだめすかす、といった必要もなくなったそうです。

 バス停のお陰で徘徊老人をキャッチするのが容易になったほかにも、思いがけない効果があったのだそうです。

 それは職員側の態度です。

 それまでは昔、パン職人だった方が夜中の2時に「パンを焼き始めないと朝に間に合わない!」などと言いだすと、一生懸命「あなたはもうパン屋じゃないんですよ、ここは老人ホームなんですよ」などと説明して懸命に止めたそうですが、今ではキッチンに連れていき、好きにさせるそうです。すると5分もしないうちになんでキッチンにいるのかも忘れてしまい、すんなりとベットに戻せるそうです。

 このようなやり方に「残酷だ」などという声もあるそうですが、自分がボケていることを認識せざる得ないような力ずくで規則に従わせるようなアプローチと、その瞬間は「昔」という現実を生きている老人にある程度好きにさせるのとどちらが残酷なんでしょうか?どんなに本当の「今」の現実を教えても、そのこと自体また忘れてしまうのであれば、自分が生き生きとしていた「昔」の現実を生きてもらうほうが、その本人の尊厳を尊重しているように私には思えます。

 冒頭に書いた通りお世話になった方がちょうどそういった施設に収容されたばかりだったので、ちょっと気になったお話でした。元ネタは、こちら。

The Bus Stop

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