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Brighture English Academy 代表。趣味はウクレレとかハイキングとかDIYとか旅行などなど。在米20年。シリコンバレーに住みつつ、日本とアメリカとフィリピンで会社経営しています。最近は英語教育がライフワークになりつつある。

2013年12月16日月曜日

GunbyGun〜「ソーシャルは銃よりも強し?」

 幼児20人、大人ら6人の合計26人が命を落とした米国コネチカット州のサンディフック小学校銃乱射事件からちょうど365日後の2013年12月13日金曜日、今度はコロラド州のアラパホー高校で銃乱射事件が発生しました。高校生の犯人は、2名に重傷を追わせた上で自ら銃で自殺。現在犠牲者は生死の境をさまよっています。全米が「またか……」というやるせなさに包まれました。

 アメリカ国内における大量殺人は、およそ2週間毎に発生しています。FBIが2006〜2011年の5年間に記録した大量殺人事件の数は、なんと172件(!)にも及ぶのです。しかしこの数字には、ローカルに処理された事件の多くが含まれていません。FBIが記録されているは全体のおよそ61パーセントと言われており、この数字が正しければ、アメリカにおける大量殺人の件数は5年に314件にものぼる計算になります。

 また、サンディフック小学校やアラパホー高校銃撃事件のように、全米で話題になる大量殺人はおよそ6件に1件とさえ言われているのです。大半の事件は全米規模では話題にすらならず、地方紙をしばらく賑わせ、すぐに忘れ去られてゆくのです。では、こうして忘れ去れていく大量殺人事件は、いったいどのようなものなのでしょうか?

 それらの大半は、家庭内での事件なのです。


 失業、家計の問題、恋愛の破局、離婚、家庭内のいざこざ……。あるいは些細な揉めごとが、家族のメンバーを激高させます。そしてあまりにも身近にある銃器。犠牲者の77パーセントは、銃によって殺されるのです。犯行に使われる武器の大半は、しばしば規制論議の対象になるアサルト・ライフルなどではなく、容易に手に入る拳銃です。離婚を根に持った元夫が、感謝祭やクリスマスのパーティに乗り込んでいって、一家を皆殺しにする。そんな事件が後を絶ちません。スティーブ・ジョブズが亡くなった日にも、職場での待遇に腹を立てた男が職場の同僚を数人射殺した上、アップル本社から1キロと離れていない所に潜伏し、町には戒厳令が敷かれました。しかしこの事件、クパチーノ市内以外では、ほとんど話題にすらならなかったのです。
子供、兄弟、配偶者、恋人…… 大量殺人の57パーセントは、顔見知りによって殺されるのです。また、実行犯の94パーセントは男性です。



 実行犯の3人に1人はその場で自殺。その他の大半は警察によって射殺されます。仮に捕まっても、精神の疾病等を理由に責任を問われないことも多数なのです。救われない遺族らの傷。

動かない銃規制
 サンディフック小学校銃乱射事件の後、銃規制論議が活発に行われました。サンディフック事件の遺族たちも議会に強く働きかけました。ところが4月に米議会に提出された銃購入の際に犯歴照会を強化する法案は、否決されてしまったのです。地方レベルでは銃規制法の制定に成功したところもありますが、全体的に見れば銃規制は後退する一方なのです。

ソーシャルのチカラで銃器を減らす
 しかし、ここに来て面白い動きがあります。それはクラウド・ファンディングを利用した、銃器買い取りプログラムです。

 仕組みはこうです。例えば僕が銃規制に賛成なら、gunbygun.org のようなサイトに行って、お金を寄付します。するとこのサイトを運営する非営利団体「Gun by Gun」は、そのお金を原資にして個人所有の銃の買い取り、破棄を行うのです。銃の出所や素性は一切問われません。持ち込まれた銃は一丁当たり100ドルで買い取られます。アサルト・ライフルなら200ドル。銃の回収を行うのは地元警察で、GunbyGunはそのための資金提供と銃器買い取りプログラムの告知を行うのです。

 カリフォルニア州オークランド市は、今年1年だけでも3024件以上もの銃撃事件が起きている、全米でも屈指の犯罪都市です。サンディフック小学校銃撃事件からちょうど1年の昨日12月14日、GunbyGun は12月はオークランド市にて銃の買い取りプログラムを実施しました。このイベントのために集まった資金は5万ドル。500丁の銃器を買い取ることのできる金額です。大した額ではないのかも知れません。それでもオークランド市は500丁分だけ、安全な町になることができるのです。

 GunbyGun を創設したイアン・ジョンストン氏は31歳の若者です。彼は10歳の時に、強盗によって父親を撃ち殺されてしまったのです。ニュース番組に銃器買い取りプログラムの有効性について尋ねられた彼はこう答えたのです。

「去年の暮れのサンディフックの悲劇の後、今度こそは銃規制法が制定され、アメリカはより安全な国へと変っていくと思っていた。でも政治家たちは何も変えられやしない。受け身に待っていってもどうにもならない。今ここでやれることから、手を付けたいんだ。」

 ネットを活用して、民意を、資金を集める。遅々として進まない政府による銃規制を待つのでなく、ソーシャルのチカラで銃をコントロールしていく。そんな試みはまだ始まったばかりです。「ペンは剣よりも強し」ならぬ、「ソーシャルは銃よりも強し」となりうるのか、それはイアン・ジョンストン氏のような勇気ある若者の行動力と、僕ら一人一人の善意しだいではないでしょうか?

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PS:こちらはオークランド向けに行われたファンド募集キャンペーンのビデオです。是非ごらんあれ。



PPS: アメリカにおける大量殺人の各種数字は、USA Today より引用。こちらも興味深いです。

The Untold Story of America's Mass Killings - USA Today


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