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Brighture English Academy 代表。趣味はウクレレとかハイキングとかDIYとか旅行などなど。在米20年。シリコンバレーに住みつつ、日本とアメリカとフィリピンで会社経営しています。最近は英語教育がライフワークになりつつある。

2012年7月31日火曜日

「霊感」vs.「実行」

先週日本に一時期国し、あちらこちらで講演やインタビューや対談などをを受けたのですが、その際に強く感じたのが「多くの人がアップルには何か凄い秘密があると思っている」ということです。

なんというか「アップルには何か凄いアイデアや秘密があって、だからうまくいくんだ!」みたいな感じとでも言えばいいでしょうか?

そういう「秘密」やアイデアがないわけじゃありませんが、私はあんまりそういう「凄いアイデア」みたいな部分がアップルが他社に差をつけている根本的な要因ではないと思っています。

大事なのはExecution
エジソンが言ったとされる:

"1% Inspiration, 99% Perspiration" (発明は1%の霊感と99%の努力からなる)

という言葉がありますが、最近シリコンバレーではこれをもじって:

"1% Inspiration, 99% Execution" (1%の霊感と99%の実行)

なんて言い方をしています。

そしてアップルの凄いところはまさにこの「実行」の部分なんです。

どんな良いアイデアがあったって、それを魅力のある製品として形にしなければ売れません。ですからアイデアも勿論重要ですが、デザイン、開発、テスト、部品調達、製造、ディストリビューション、 マーケティング、セールス、サポートその他諸々のすべてが同様に重要であり、この「実行」の部分のどこか一カ所が弱いだけで、そこが足を引っ張り、爆発的に売ることはできなくなってしまいます。

Idea is Cheap
冷静に考えてみれば、アップルがゼロから考えだしたアイデアなんて何一つありません。GUIもMP3プレーヤもスマートフォンもタブレットもすべて先駆者がいましたが、アップル以前にまともに成功した会社はひとつもありませんでした。エジソンの前に電球に関する特許を取得した者は、なんと22名もいます。エジソン自身の特許も、カナダ人の学生が取得した炭素フィラメントの特許を買い取り、それに改良を加えたモノです。エジソンは妥協なくフィラメントの材質を追い求め、自身の特許が無効とされた後にも、労働者の時給が7セントの時代に10万ドルもの裁判費用をかけて電球発明者の名誉を自分のものにしています。ここまで妥協なく「実行」する者は昔も今もあまりいないでしょう。

ですので問いかけてみるべきなのは、「なぜアップルが成功したのか?」ではなく、「なぜゼロックスはGUIベースのコンピュータを売り出さなかったのか?」であり、また「なぜソニーがミュージックストアに失敗したのか?」なのです。

その答えはおそらく「霊感」の不足ではなく、「実行」部分の甘さにあります。

「霊感」だって実行なしには磨かれない
アップルの先駆者を凌駕する製品の使い勝手の良さ。これは多くのトライ&エラー、そして大量のディスカッションを経て生み出されています。トライ&エラー、そしてディスカッションという大量の「実行」をこなすからこそ、そこからイスピレーションに磨きがかかり、妥協のない製品が生み出されていきます。こうした実行なしに「霊感」の部分だけ奇妙に神格化することには居心地の悪い違和感を感じます。

アップルはどのくらい「実行」しているか?
次はもっと生々しい「実行」の部分に目を向けてみましょう。

2011年の10〜12月の3ヶ月間に3760万台以上ものiPhoneはが売れました。

3760万台 ÷ 3ヶ月 ÷30日 ÷ 24時間 ÷ 60分と計算してみるとですね、なんと

1分に290台

のiPhoneが製造、販売されている計算になります。

例えばこれらの部品調達が滞りなく行われることの凄さを考えてみてください。iPhoneの部品点数が仮に50点ぐらいだとしても、3ヶ月間で18億個くらいの数のコンポーネントが中国の工場に滞りなく運び込まれ、電話が組み立てられ、そこから世界中の販売網に滞りなく配送されます。

1分290個売れる製品を滞りなく販売店に確実に届けるのに必要なロジスティックスの緻密さ…必要な飛行機、トラックの台数、各販売店での在庫状況の把握。そして毎分290台のペースでアクティベートされる電話をサポートするインフラ。そこから売れていくアプリケーションや楽曲をホストするクラウドサービスなどなど…。

またお客さんからサポートにかかってくる電話の数。すべてが途方もないスケールなんです。そしてこれらすべてを「当たり前のこと」としてこなしているから、アップルは「現在のアップル」になれたのです。

こういう「当たり前のこと」をスキップしてアップルのように成功することはないように思います。アップル自身、こういうレベルの「実行」を当たり前のこととして遂行するようになったのは2004年以降ぐらいのことと記憶しています。

ではアイデアは不要なのか?
ではアイデアや霊感は不要なのでしょうか?
そんなことはありません。しかしアイデアというのは吹けば飛ぶようなモノです。丁寧に発掘し、磨かないと、どんな素晴らしいアイデアでもあっという間に手垢だらけの陳腐なモノに成り下がったり、アイデアそのものが死んでしまったりします。

ですから会社のトップから末端まで「アイデアを大切にする姿勢」が非常に大切です。

そしてこの「霊感」と「実行」のバランスを:

1:99

に保てたところがスティーブ・ジョブズのもっとも優れた所だったのかも知れません。


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1 件のコメント:

HiroBlog11 さんのコメント...

いやあ松井さん、初めてコメントします。
至極同意ですね!Intelも全く同じですよ。
技術革新の会社だなんて、技術は殆ど他所から
買ってきたか、クロスライセンスで得たものばかりです。マイクロプロセッサーしかりフラッシュメモリーしかり。
日本の人はお分かりにはなっていない。
こちらではChipziraなんて言われているくらい
とにかくごり押しで実行実行ですよ。Andy GroveはIntelは海兵隊だと言っていました。Noという言葉が無い。